誰もが一度は取り組んだことのある折り紙。
昔ながらの遊びで保育・教育場面でも取り入れられることが多く、何となく知育にもよさそう…と感じる方も多いと思います。
そんな折り紙で育つ力やステップ(段階付け)の工夫をまとめました。
折り紙の歴史
そもそも、折り紙はどのような歴史があるのでしょうか?
日本において、「折り紙」という言葉は平安時代からありましたが、当時は横長の紙を横に折った文書の形式を意味していました。この言葉が現在のように用いられるようになったのは、昭和以降のこととされています。
平安時代の女流作家、紫式部日記には「このごろ反古もみな破り焼きうしなひ、雛などの屋づくりに、この春しはべりにし後、人の文もはべらず、紙にはわざと書かじと思ひはべるぞ、いとやつれる」(1)との記述もあり、当時の貴族階級では手紙の反古などの紙がこどもの遊びに使われていたことが分かります。
江戸時代になり紙の大量生産が可能になったころ、折り方そのものを楽しむ「遊戯折り紙」が誕生し、庶民にも親しまれるようになりました。着物や歌舞伎の役者絵の図案集に「折鶴」「舟柄」などが取り入れられています。大人対象の娯楽であった歴史もありますが、この時期、武家の躾の一環として、家内で教え込まれていた折り紙が、寺子屋などで、庶民の子ども対象の遊びとして普及していったことが複数の文献からうかがわれます。
明治期、明治維新の中で、日本が西洋にならい教育制度をつくった際に、フレーベルの幼児教育法が取り入れられました。フレーベル理論に含まれていたヨーロッパの古典折り紙が江戸時代からの遊戯折り紙と混交し、今日の伝承折り紙の核になったと考えられています。
(1) 藤岡忠美 中野幸一 犬養廉 石井文夫校注・訳.「新編日本古典文学全集26 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記」.小学館.1994,p.211-p.212
引用文献:五十嵐裕子.折り紙の歴史と保育教材としての折り紙に関する一考察.
浦和論叢.2012,第46号,p.45-p.68
日本で育まれてきた「遊戯折り紙」とヨーロッパの「古典折り紙」が融合して、現在のようなスタイルになったのですね。
では、折り紙でどんな力が育つのでしょうか?
折り紙で育つ力
指先の器用さ
「巧緻性(こうちせい)」と呼ばれます
指先が器用である=手や指の細かな動きが上手にできる、ということです。これを難しい言葉ですが「巧緻性がある」と呼びます。
折り紙は紙を決められた線で細かく折ったり、わずかな隙間を広げたりするような、細やかな指の動きが必要となります。
そのため、折り紙遊びをしていくと手や指の巧緻性が高めることができます。
指先の力加減もできるようになります
折り紙を折るとき、折り目をギュッと押えますよね。また、複数回折りたたむようなときにはだんだんと厚くなる紙を指先で押さえ込むことがあるかと思います。
繰り返し折り紙に取り組む中で、指先で力を加える能力が成長します。そして、どの程度の力を入れたら折り目を付けられるのか、からだが学習していきます。
これにより、細やかな指先の力加減ができるようになるのです。
生活にどう活きるのか
指先の器用さは生活の中で大切な力となります。
子どもたちにとっては、まず、身近な道具を使う際に必須です。スプーン、フォーク、お箸という食事場面。ハサミ、クレヨン、鉛筆といった工作・表現・勉強場面などなど。
また、ボタンを留める/外すことや、靴下の着脱など、更衣場面でも必要な能力として活きてきます。
視空間認知(しくうかんにんち)
視空間認知とは
視空間認知とは「視る」「空間認知」の言葉から想像すると分かりやすいのですが、視覚的な情報処理により、二次元/三次元空間を認識する能力のことを指します。ここで言う「視る」とは、小学校の視力検査で経験するような”視力”とは異なり、目から情報を取り入れることそのものです。
更に要素は分かれるのですが、
・モノの形の認識
・位置関係や向きの認識
といった能力が折り紙では育まれやすいと考えられます。
この視空間認知の力が弱いと…
形や空間のとらえに苦手さがあると、想像以上に生活への影響が出やすくなります。
赤ちゃんのころはこの機能は発達途中であり気になることはほとんどありませんが、集団生活が始まることの多い幼稚園時期や小学校入学後のころに気になることが増えるかもしれません。
分かりやすいところだと、
・ぬりえがあまりにもはみ出る(指先の不器用さが原因ではなさそうなとき)
・お絵かきで見本と同じ形が描けない
・文字の読み書きがものすごく苦手
といった影響が挙げられます。
目と手の協調性
「みること」と「手の動き」のコンビネーション
“協調的な運動”といってもたくさんの種類がありますが、折り紙では「目と手の協調性」を育むことができます。これは「みること」と「手の動き」のコンビネーションと言えます。
思うようにモノを操作し、コントロールするために必須の力です。
生活にどう活きるのか
実は、私たちが何気なく行う動作のあらゆる場面に目と手の協調性が使われています。
・スプーンやお箸で食べ物を口元へ運ぶ
・クレヨンや鉛筆で絵を描いたり、字を書いたり
・キャッチボール
・少し離れたところに置いてあるものを取る …などなど
赤ちゃんのとき、「あれは何だろう?」と手を伸ばして触ることが目と手の協調の始まりです。
折り紙と目と手の協調性
このように考えると、折り紙は目の前の紙を「みて」手を伸ばし、目的とする形に「手の動き」を使って折りたたむ、という作業となります。正に、目と手の協調運動となりますね。
作品を作り上げる中で、この力が育まれることがイメージされるかと思います。
集中力
折り紙を折るときは、少なからずその作業に注意を向け続けなければ完成しません。場合によっては本をじっくり見たり、教えてくれる人の手元に注目したり、話を聞いたり…これは集中力を高め、育てることに繋がります。
順序立てて物ごとに取り組む力
1つの工程で完成する折り紙もありますが、複数の工程で完成する作品のほうが多い折り紙。順序立てて物ごとに取り組む力が必要となります。
初めのうちは教えてくれる人が順序立てて説明してくれるので、それに沿って取り組むこととなります。しかし、説明書を読める時期になったら、自分で考えなくてはなりません。
- まず、縦半分に折って…
- 次に、これを広げて…
など工程を一つずつ、順序に沿って進めていく練習になります。
情緒面の基盤
折り紙あそびでは、何らかの作品が完成することになります。自ら手をかけたものにより、「できた!」という経験が得られるということです。
これは、子どもたちの達成感に直結し、自信を得ることができます。周りの人に褒めてもらえたら更にその気持ちは高まるでしょう。自己肯定感や、次への挑戦への意欲といった、情緒面の基盤にも繋がっていきます。
折り紙あそびはいつから?
0歳~未就学のころ
結論から言うと、折り紙は0歳からできます。年齢にあわせた段階付けがしやすいのも、折り紙のいいところ。
・やぶく
・丸める
・折りたたむ
上記の遊びに加えて
・数回の工程で完成する作品
・のりで貼り付けるような作品
上記の遊びに加えて
・ハサミを使うような作品
・クレヨンや鉛筆を使うような作品
と幅広く遊ぶことができます。
小学生は?
もちろん、折り紙は小学生にもおすすめです。
小学校に入るころになると、それぞれのお子さんで興味の有無や指先の器用さ、集中力の程度なども大きく個性が出る時期になるため、そのお子さんに合わせて課題を設定することが大切です。
お子さんのタイプにあわない作品(簡単すぎるor難しすぎる)だと「やりたくない!」となるため気をつけましょう
課題の段階付けの工夫
折り紙の「遊びかた(ちぎる、折るなど)」「折りかた(何回の工程で完成するか)」以外の段階付けの工夫についてご紹介します。
紙の大きさ
紙は小さくなるほど難易度が上がります。
逆に、大きいほど分かりやすく、失敗も減ります。
私はよく、折り紙に苦手意識の高いお子さんへの療育で、新聞紙を使った折り紙遊びを行います。
新聞紙のような大きな紙だと、
・折る場所が分かりやすい
・空間の構成が理解しやすい
・多少ずれても作品の完成度が大きく下がらない
・指先というより手全体や掌を使うことが多いため不器用タイプのお子さんもやりやすい
といったメリットがあります。
カブトや紙鉄砲など遊べる作品だと、苦手意識の高いお子さんでも楽しんで挑戦してくれることが多いですよ!
新聞紙以外では、大きめの紙(A4コピー用紙など)で正方形の用紙を自作することをオススメします。好きな大きさの折り紙を作ることができますよ!
紙の厚さ
紙は薄すぎるor厚すぎるほど難易度が上がります。
・すごく薄い紙:つまむときに指先の器用さが必要
・すごく厚い紙:折りたたむ際に指の力が必要
と必要な力は変わります。療育場面では目的によって意図的に用紙の厚さを変えることもあります。
ただし、初めから難しい厚さにするのはNGです!!使いやすい厚さからスタートして、お子さんの意欲や必要に応じて調整してみましょう。
おすすめの折り紙サイト
私は「おりがみくらぶ」のサイトを使うことが多いです。もともと作品数は多いのですが、どんどん数が増えていってワクワクします!同じ作品でも難易度別に複数の作り方が紹介されていたり、プリントアウトもしやすいので、実際の療育現場でも使いやすいと感じています。
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本でしたらこのあたりがとてもおすすめ!
工程が分かりやすく、お子さん自身で折り進められることも多くなりそう。試行錯誤して、「できた!」をたくさん経験できますね。
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